統計検定1級(統計数理・社会科学)合格体験記
目次
1. はじめに
2. 当時の私
3. 受験の動機
4. 統計検定とは
5. 教材
6. 合格までの過程
7. 振り返り
8. おすすめの勉強方法
9. おわりに
1. はじめに
初めましてsmallpondと申します。私は2022年に実施された統計検定1級に合格しました。本当は合格直後に書こうと思っていたのですが、怠け者ゆえにここまで引き延ばしてしまいました。最近よく統計検定について質問されるので、自分が受験前に知っておきたかったと思った情報や自分の勉強過程などを書いていきます。
2. 当時の私
ピチピチの京大経済1回生
数3は高校2年生の時に一通り履修したが一浪文系受験のため3月時点で2年のブランクあり。(部分積分すら満足にできないくそ雑魚)
統計学は数1Aの知識のみ(数1A共通テスト60点のチンカス)
計量経済学の少人数入門講義を受講(半分くらいしか理解できなかった)
3. 受験の動機
上記の計量経済学の授業でデータサイエンスなるものに興味を持った私は、まず、Pythonの基本文法とnumpyなどのライブラリを学び始めました。しかし、それらを活用してデータ分析をしようと思っても基本的な統計学の用語や手法を知らず何もできませんでした。そこで、統計学を0からしっかり学ぼうと思い、統計検定2級と1級の受験を決めました。
4. 統計検定とは
「統計検定」は、統計に関する知識や活用力を評価する全国統一試験です。 データに基づいて客観的に判断し、科学的に問題を解決する能力は、仕事や研究をするための21世紀型スキルとして国際社会で広く認められています。日本統計学会は、国際通用性のある統計活用能力の体系的な評価システムとして統計検定を開発し、様々な水準と内容で統計活用力を認定しています。 参考: 統計検定とは
統計検定2級
大学1,2回生の授業で習う統計学の知識が問われる
CBT方式(テストセンター受験)のみ
問題は全問マーク式で、扱う範囲に対して比較的優しめの難易度
たまに超絶難しい年があるらしい
合格するだけなら数2Bまでで事足りるが、重要な定理の証明や仮設検定、区間推定の理論を理解するためには数3まで必要。
過去問しか解いてないのであまり詳しくは説明できません。大学1,2回生の範囲が問われますが高校生でも勉強すれば普通に合格できます。小学3年生でも受かっている人がいます。(すごすぎる)
統計検定準1級
実用的な統計手法を広く浅く問われる
CBT方式のみ
準1級から難易度が跳ね上がる
(ワンピースで例えるとアーロンとジンベエくらい違う)
後述する統計検定1級の統計応用共通分野と統計数理を足し合わせて薄めた感じです。軽い気持ちで挑むと何人もの野口英世が犠牲になります。こちらも過去問しか解いていないのであまり説明できません。
統計検定1級
大学専門課程で習う統計学の知識が問われる
PBT(記述式のみ)で一年に一回のみ。もちろん証明問題も出る
「統計数理」と「統計応用」に分かれ、それぞれで合否判定される。片方だけ受験することもできる。
「統計応用」は人文科学、社会科学、理工学、医薬生物学の中から一分野選択
試験時間はそれぞれ90分で、5問の中から3問選択
毎年「統計応用」の問5には全分野共通問題が出題される
理工学と社会科学は共通問題が出やすい
「統計数理」「統計応用」を両方受かってはじめて統計検定1級合格となる
大学1回生の微積線形は必須。大学2回生レベルの線形代数を理解していないと解けない問題あり。積分RTAのため瞬間部分積分ができると有利。
- 最年少記録は灘の高二(2022年更新)
私は経済学部だったので統計応用では社会科学を選択しました。準一級と違い記述式であるため丸暗記によるゴリ押しは効きません。
毎年種々雑多な問題が出ますが、中でもポアソン分布に関する問題が多い印象です。
個人的には「統計数理」よりも「統計応用」のほうが問題が難しく、対策しにくいと感じました。
5. 教材
勉強に使った教材と使わなかったけど役に立ちそうな教材を紹介します。
(1). メイン
1 統計検定®2級対策講座
Miyamoto Shotaさんが作成した統計検定2級合格を目指すUdemyのコース
Miyamoto Shotaさんが毎回優しく語りかけてくる。
定価15800円だが、セール時2200円←頻繁にセールが行われるためほぼ常時2200円で買える
講義は毎回5~15分程度×68
講義ごとに毎回小テストがあり、インプット偏重学習に陥る心配がない
厳密な証明などはなし
2 現代数理統計学の基礎(久保川達也 著)
久保川先生が東大経済学部の計量経済学の授業で扱った内容をもとに執筆した本
1級参考書二大巨頭の一つ。1級受験者のBibleみたいに扱われているが、1級合格には明らかにオーバーワーク。基本的に数学参考書は、「基礎」=「優しい」ではない。
二大巨頭の片割れである「現代数理統計学」よりも演習問題が豊富だが、難易度が高すぎるため全部解く必要はない。1~8章を読み、易~標準の問題を完璧にして過去問演習をすれば1級の「統計数理」は余裕で合格できる
定理一つ一つに厳密な証明がついているため、1から10まで勉強しているとかなり時間がかかるので時間がなく手っ取り早く1級を突破したい人にはお勧めしない。
- 解答解説は「『現代数理統計学の基礎』章末演習問題解答 (答案)」がおすすめ
- 第3章に出てくる確率分布に関しては、期待値と分散の導出を自力でできるようにしておく。これが統計検定1級の重要な得点源になる。
3 統計検定1級・準1級公式問題集(日本統計学会 編集)
公式問題集(ただの過去問集)
なぜか準1級とセットでしか売ってない
過去問2年分で3300円(高杉)
とりあえず4年分は購入しましょう
(2). 補助
1 統計検定準1級対応 統計学実践ワークブック (日本統計学会 編)
統計検定準1級の教科書だが、これを完璧にすればおそらく1級の統計数理は合格できる。
1~14章くらいまでが統計数理の範囲で、15~30章は統計応用の勉強に使える
- 統計学の辞書みたいなもの
私は主成分分析と確率過程の勉強をするときに参考にしました
2 統計検定1級対応 統計学 (日本統計学会 編)
表紙が秀逸
統計検定1級の公式教科書
あまり役に立たないとか言われているが、そんなことはない
演習問題が少ないが、1級の範囲が網羅されている。
- 1級の範囲、特に統計応用の範囲を把握するために、中古でもいいから購入したほうがいい
私は重回帰分析と時系列解析の勉強、統計応用の範囲把握のために利用しました。
3 [計量経済学の第一歩](田中隆一 著)
統計検定2級の対策や、統計応用(社会科学)の実証分析に関する問題の対策に役立つが、特に買う必要はない。
統計検定対策には「コアテキスト統計学」のほうが役に立つ
前期の計量経済学入門の授業で使用しました。
4 コアテキスト統計学(大屋幸輔 著)
- こちらも統計検定2級、統計応用(社会科学)の勉強に役立つ
経済指数の学習に利用しました。
5 高校数学の美しい物語
数学でわからないことがあったらとりあえずこのサイトを見るのがおすすめ
高校数学だけではなく大学数学の解説も多数あり
(3). 数学
1 Focus Gold数学3(啓林館)
大学受験参考書の王道。数3の範囲を基礎から応用まで網羅的に学習できる。
中古なら300円くらいで買える鈍器
- とりあえず例題をすべて解くのがおすすめ
入学前の春に数3を復習するのに利用した鈍器。重いから章ごとに切り離して使ったため、私のFocus Goldは鈍器ではなくなってしまいました。
2 線形代数学―初歩からジョルダン標準形へ(三宅敏恒 著)
1回生の時に利用した線形の教科書。レイアウトが好み。
利用はしていないが役に立ちそうな教材
1 統計検定®1級の道標【確率分布編】(作成者: Shun)
Udemy唯一の1級講座
定価27800円だがセール時1600円。いつもセールをしているのでほぼ常時1600円。Udemyではこれが普通である。
2 現代数理統計学(竹村彰通 著)
1級受験者のもう一つのBible。統計検定1級受験者はほとんど「現代数理統計学の基礎」か「現代数理統計学」を少なくとも1冊は買っている
言葉による説明で数式による論理展開を補助してくれる分、現代数理統計学よりわかりやすいらしい
- 演習問題が少なめ
3 統計学入門 (基礎統計学Ⅰ)(東京大学教養学部統計学教室 編)
6. 合格までの過程
9月下旬
2級→1級のルートで統計学を学ぼうと思い、Udemyの統計検定2級講座を4日間で受講し、その後2級の過去問を2,3回解いた。
しかし、試験日と自分の予定がなかなか嚙み合わずめんどくさくなって受験をやめる。そんな時、統計検定が1年に1回しかなく、申し込みの締め切りが迫っていると知る。
10月5日~
強い決意のもと統計検定1級を申し込む。合格者の声を読み、現代数理統計学の基礎を購入。10月中に1~8章を読了するために1週間に2章読む計画で勉強開始。
ノートに定義・定理とそれらの証明を写経しながら読み、わからないところは別の参考書を読んで理解した。
1章読み終わるごとに練習問題を解いていたが、初見で解けた問題は4割くらいしかなかった。解けなかった問題にはチェックをつけ解けるようになるまでやろうとしたが、結局最後まで理解できなかった問題もいくつかあった。
大学の授業の合間に問題を解いていたら友達にひかれた。
重積分の変数変換など、大学でまだギリギリ習っていない数学も必要だったが、「高校数学の美しい物語」のおかげで何とかなった。
11月5日~
「現代数理統計学の基礎」を8章まで読了し、過去問演習を開始。この時になって初めて「現代数理統計学の基礎」の演習問題が異常に難しかったことを知る。
4年分の過去問を購入し、本番と同じように時間を計って問題を解いた。選択しなかった問題も1題25分でしっかり解いた。
現代数理統計学の基礎を丁寧にやったおかげで「統計数理」に関しては11月5日時点で合格できそうであったが、「統計応用」は5割もできず、合格からは程遠かった。
私は経済学部だからという理由で「統計応用」を「社会科学分野」にして申し込んだのだが、まだ1回生であったため代表的な経済指数や、操作変数法などの計量経済学的な手法を知らなかった。
そこで「コアテキスト統計学」や「統計検定1級対応 統計学」を購入し、必要最低限の知識を大雑把に身に着けた。個人的にこれが一番合否を分けた要因だと思う。
また、この時期に帝〇〇〇大学MADに脳を破壊されて思い出し笑いが止まらなくなり、ニヤニヤしながら何かをガリガリ計算する奇妙な人間になっていた。
11月20日(受験当日)
日程
10:00 入場開始
10:30~12:00 統計数理
13:30~15:00 統計応用
受験開始まで
会場はなんば駅近くのビルだった。「試験が終わったら大阪観光できるじゃん!たこ焼きたこ焼き~(^^♪」と胸を躍らせながら試験会場に到着。
6月に受けた簿記3級の会場とは全く雰囲気が違って強そうな人ばかりで面食らったが、今までともに戦ってきた参考書たちのおかげで平常心を保つことができた。
1級の受験者は男性ばかりであったが、ちょうど同じビルで京都女子大学の推薦入試の面接が行われていたため、ビル内の男女比はちょうど半々くらいだったのではないだろうか(クソどうでもいい)。
毎年の合格率は統計数理,統計応用ともに20%くらいである。あんなに強そうな人たちが80%も落ちるのだから、決して甘くない試験であるとその時やっと気が付いた。
統計数理
受験番号を書く欄が多すぎて、書き忘れる人が続出していた。
自己採点結果は
問2 50%
問3 80%
問4 95%
問2で爆死したが、合格を確信。
ルンルン気分で会場を出てたこ焼きを食べに行くが、長蛇の列ができていたため断念。ビックマックを満面の笑みで頬張る。1時間後の地獄を知らずに。
統計応用
自己採点結果
問1 80%
問2 80%
問5 30%
問5で勉強していなかった2変量正規分布と「平均への回帰」とかいう言葉が登場。緊張も相まって頭が錯乱し、代わりに問4を解くかどうか悩んでいるうちに試験終了。振り返ってみれば、そこまで難しい問題ではなく冷静になれば対処できたはずである。不合格を確信した私は自分の未熟さを呪った。
試験後
近くでたこ焼きとポケモンの新作を購入した私は、統計応用の不出来に意気消沈しつつも、まだ見ぬ新しいポケモンとの出会いにワクワクしながら電車に乗った。
12月19日 合格発表
統計数理も統計応用も無事に合格していた。二つとも優秀賞とかではなかったが、合格したことが滅茶苦茶うれしくてドイツ語の授業中に大きくガッツポーズをとってしまった。ついには承認欲求モンスターに成り果て、翌日にtwitterを始めてしまう。
統計検定1級の数理統計と社会科学合格した。
— small pond (@smallpond_twi) 2022年12月20日
現代数理統計学の基礎は神参考書
1月?日
統計数理と統計応用の合格証が届く。これはなぜかtwitterにあげなかった。
2月14日
統計検定1級の合格証が届いた。twitterで自慢して気持ちよくなった。
統計検定1級の合格証届いた。こういうの貰ったの初めてだから嬉しい
— small pond (@smallpond_twi) 2023年2月14日
1ヶ月間死ぬ気でやってよかった pic.twitter.com/RL1aU24HEf
7. 振り返り
統計検定のおかげで1.5か月間濃厚に勉強をすることができたが、全体的にかなり勉強不足を感じた。特に時系列解析と重回帰分析は全くできず、本番でもこの2つはなるべく選択しないよう心掛けていた。
積分RTAのおかげで積分速度が2倍くらいになり、後期の微積のテストでA評価をもらえてうれしかった。
合格するためだけなら「理工学」を選択したほうがよかった気がするが、「社会科学」を選択したおかげで計量経済学の考え方が少し身に付き経済学徒として成長できたので後悔はしていない。
暴発した承認欲求に押されてツイ廃になってしまったことは後悔している。もう後戻りはできない。
終わってから1週間くらい燃え尽き症候群になってしまった。肩書を得るためだけにつけた勉強習慣は長く続かないのだと知った。
試験終わった後のパルデア地方上陸は気持ち良すぎた。
8. おすすめの勉強方法
今回の受験を踏まえて考えた勉強方法を紹介します。
① 統計検定2級レベルの学習
まずは統計検定2級の過去問を解いてみてください。8割くらい余裕で解けたら②に進んでください。もし、全然解けなかったり、不安が残るようであれば、二級レベルの教材を一つやってください。それができたらまた2級の過去問を解いて理解度をチェックしてください。
おすすめの教材は、統計検定®2級対策講座(Miyamoto Shota 作成)です。
② 統計検定1級の過去問を1年分解く
1級の勉強を始める前に自分に何が足りないのか、統計検定1級ではどのような問題が出るのかおおまかに把握してください。これによって③以降効率よく勉強ができるようになると思います。
③ 統計検定1級の公式教科書を読み、過去問を解きまくる。
結局これが一番の近道だと思います。まず、教科書の1~5章(統計数理の範囲)までを読んでください。「現代数理統計学」や「現代数理統計学の基礎」は教科書を読んでもわからなかった時の補助に使うといいです。
次は過去問を解いてください。過去問を解きまくって解く問題がなくなってしまったら、各大学の院試を調べてみましょう。統計1級と同じくらいのレベルのものがたくさん転がっています。「現代数理統計学の基礎」の章末問題もおすすめです。その際は易~標準の問題を解きましょう。難を解く必要はありません。難易度や解答は下記のサイトを参考にしましょう。 qiita.com
試験までに時間的に余裕があり、統計学を根本からじっくり理解したいという方は測度論やルベーグ積分のテキストを一から読み進めてもいいかもしれませんが、統計検定1級合格には必要ないと思います。
9. おわりに
ここまで冗長な記事を読んでくださりありがとうございました。皆さんのお役に立てていたら嬉しいです。